震災を受けた場合、在宅看護で万が一の為の日頃の備えについて
   障害をお持ちのお子さんを在宅で育てているご家族の皆さんへ
みさかえの園むつみの家
                       18トリソミーの会賛助会員
                           近藤達郎(医師)
18トリソミーの会の皆様、重症心身障害児・者施設 みさかえの園むつみの家
に勤務している近藤達郎です。小児科医で臨床遺伝というあまり聞き慣れない分
野を専門としております。先日、「震災など万が一の為の日頃の備えについて」
のお話をというご依頼を受けました。この寄稿が何かのお役に立てば幸いです。
 この題を進める前に、先ずは今回の東日本大震災で被災された方々の御冥福と
ともに一刻も早い復興をお祈り申し上げます。
 さて、本会の会員の方々の状況を考えた場合に、かなり濃厚な医療的内容を在
宅に持ち込まれている方も少なくないと思っております。思いつくままに、日常
生活上どのような問題を持ちうるかを考えてみますと、以下のようなことがある
と思います(重度な状況のみを列挙しております)。


(1) 呼吸関係:簡易型人工呼吸器使用(この場合は気管切
開されておられる方が多いと存じます)、呼吸をサポートするアンビュー・バック、
痰を吸引する吸引機、在宅酸素

(2) 栄養:胃瘻増設術を受けておられる方は胃瘻チューブ
からの経管栄養、経鼻チューブ(鼻から胃へのチューブ)からの経管栄養

(3) けいれん:けいれんが長く続く場合などに座剤(ダイアップ座薬、エスクレ
座薬、ワコビタール座薬など)

(4) その他の様々なお薬(内服薬、点眼薬、軟膏類、座薬)の管理

(5) お子様が通常の日常生活を送る上での様々なサポート  などなど
 

 今回の震災で多くの皆様が究極の状況に追いやられ、ご家族ご自身の心身の健
康状況を保つのも難しいのではないかと思います。その場合には、医療的内容が
濃厚なお子様であればなおさらのこと、何とか良い状態で病院に入院することも
想定された方が良いように感じます。そのためには、受け入れ可能病院に連絡が
とれて対応していただくまでをしのぐことが大切です。先ずは1-2日を乗り切る
準備が必要だと思います。


上記の(1)~(5)で、具体的には何が必要かと考えると、以下のようなものが挙げ
られます。

(a) 簡易型人工呼吸器、吸引機などについては電気が不可欠。

(b) 吸引チューブ、酸素のチューブ、経鼻チューブなどのチューブ類とチューブ
を清潔に保つアルコール綿や生理食塩水や滅菌水に湿らせている包装されたガー
ゼ類など。

(c) 経管栄養物(1-2日分)

(d) 各種お薬

(e) 生活必需品(水、懐中電灯、ラジオ、保存食など)


 (b)-(e)については、とにかく数日分を目指して何かがあった時にすぐに持ち
出せる準備が必要と思われます。電気については、簡易型人工呼吸器には予備電
源がついていると思いますが、それも長くもつとは思えないので、何らかの策が
必要です。場合によっては、下記記事のように、車のシガーソケットを使用でき
れば良いかも知れませんが、その為には、シガーソケットが使用できるケーブル
が必要と思われます。最近は蓄電式ハイブリッドカー等の中には100Vの通常のコ
ンセントが配備されているものも出ているようです。


東日本大震災に伴う停電は、在宅の重症心身障害者にとって死活問題。濃密な医
療的ケアが必要で、電動医療機器が手放せないからだ。釜石市甲子町の菊池裕子
さん(27)は、家族や周囲の懸命の支えで、震災発生から6日間の停電を乗り
切り、笑顔を取り戻した。裕子さんは施設に入所せず、自宅で父俊二さん(63)、
母紀子さん(61)との3人暮らし。電動たん吸引器が欠かせない。3月11日
の地震発生時、俊二さんは日課の散歩中。家にいた紀子さんは、大きな揺れに驚
き体をこわばらせた裕子さんに覆いかぶさり、ぎゅっと抱きしめ続けた。同市甲
子町地区は内陸で津波被害は免れたものの、停電に。走って帰宅した俊二さんが
機転を利かせ、車のシガーソケットから電源を確保し、たん吸引器を作動させた。
車に残っていたガソリンは半分以下。1日たっても、2日たっても停電は続く。
裕子さんが体調を崩しても病院に連れて行くのは難しいため、2人は暗闇の中、
付きっきりで裕子さんに寄り添った。周囲がそんな日々を支えた。ヘルパーや訪
問看護師、主治医は自分の家族らが被災しながらも「裕ちゃん、元気?」と訪問。
紫波町に住む親戚はガソリンをかき集めてくれた。紀子さんは「重症者は周囲の
助けがないと生きていけない。裕子は人に恵まれているとつくづく実感した」と
感謝。16日夕方、電気がついた時は「思わず拍手しました」。4月7日深夜に
また激しい余震。泣き出した裕子さんだったが、両親が寄り添って落ち着きを取
り戻し、8日夜まで続いた停電も乗り切った。県重症心身障害児(者)を守る会
(平野功会長、会員251人)は震災発生後、同会が把握する陸前高田市から宮
古市までの在宅重症者25人の安否確認を進め、全員の無事を確認した。持ち前
の無垢(むく)な笑みを広げる裕子さん。その手を握りしめ、紀子さんは「お世
話になっている多くの方々が被災し心が痛む。いつの日か被災地に日常生活が戻
り、笑顔が戻ってほしい」と願う。【出典:岩手日報】


 次に入院後のことについても少し話を触れます。
 状況によっては行きつけでのお子様の状況を良く知っている病院に入院できる
かどうかは分からないことがあります。その際には、医療的な情報が必要です。
これは極めて重要と思いますので、お時間がある時に整理しておくと良いでしょ
う。


例)人工呼吸器をお使いであればその条件(圧、回数など)、気管切開をしてい
れば気管チューブの大きさなどの詳細、胃瘻をお持ちであれば胃瘻チューブの詳
細、栄養(食事)の内容、お薬の内容・量・使用状況など


以上、思いつくままに書きました。上記をご参考にして、一度主治医の先生とも
意見の調整をしておくのが良いと思います。万が一という状況は、もちろん来な
い方がよいのですが、備えあれば憂いなしとも言いますので、シュミレーション
はしておいても損はないと思います。


<「18トリソミーの会」会報第32号pp1-2より、近藤先生の許可を得て掲載して
います>